地域と共にある暮らし
顔が分かる関係づくり
東武東上線和光市駅から南方を眺めると、建物の間にヒマラヤスギのてっぺんがのぞいている。雑居ビルや商業施設、住宅が混在する街の一画に、その巨木は立っている。南口から徒歩5分。こんな駅近によく残ったものだ。緑に囲まれ、環境性能に優れた集合住宅が完成したと聞き、オープンハウス開催日に現地を訪ねた。
「鈴森village(ビレッジ)」は3階建てが2棟。住戸26と店舗4の賃貸向けで、鈴森(本社・和光市本町)が事業主体。
「この地域らしい個性的な街を100年後に残したい」。社長の鈴木早苗さんは、この土地で代を重ねる旧家の16代目。この地域を先導してきた大地主として、この事業には特別な思いがある。
敷地内には、屋敷林の一部だというケヤキの大木が並び、この地域在来の植物などが植栽されていて目を引く。印象的なのは、建物を縫うように配置された小道。聞けば、敷地の一部はもともと私設の公園で、駅への近道に利用する近隣住民も多かった。小道は地域の生活導線として設計され、これからも近隣に開かれると言う。
「入居される方には、地域の皆さんと一緒に住んでほしい」。小道は入居者と地域がつながる仕掛けの一つ。早苗さんは、事業を通じて顔が見える地域のつながりを取り戻したいと考えている。
地域と共にあれ、と教えられて育った。旧新倉村の2代目村長を務めた曾祖父の左内(さない)さんは、道路用地に所有地の一部を無償で提供するなど街の発展に貢献して「道路村長」と呼ばれた。早苗は「さない」にならって付けられた名。大地主には果たすべき役割がある。100年後の街への思いは、その覚悟でもある。
鈴森villageは、環境に配慮した特定の街区や建物を評価する米国の認証システム「LEED(リード)」の取得を目指している。国内でも注目され認証件数は増加しているものの、住宅向け認証はまだ数例しかない。収益性を最優先すべき賃貸住宅だが、あえて費用をかけて挑んだ。
早苗さんが願う「この地域らしいつながり」は100年後、きっと街の個性になる。認証取得が、それを証明するだろう。
◇
自治会加入率の低下に、全国の自治体が危機感を強めている。総務省が昨年発表した調査では、加入率は72%。10年前から6ポイント低下した。令和3年度の和光市の加入率は40%を下回っている。