特集|地域の「らしさ」を100年後へ残したい

エコ贔屓(ひいき)特集『みらいものさし』 埼玉新聞2023年2月28日掲載

地元ために土地を生かす責任
鈴森代表取締役社長 鈴木早苗さん

鈴森village(ビレッジ)の設計に当たって、お願いしたことが三つあります。安心・安全に暮らせて、子育てができること。地域の皆さんが敷地を通り抜けられること。そして、長く愛されることです。これらは、亡夫・晴紀を含めた私たち家族の願いでもありました。

曾祖父の左内は、村長を長く務めた人で、所有する土地を無償で提供して道路をつくり「道路村長」と呼ばれました。左内の無私の心が地域の地主を動かし、成し遂げた様々な事業が現在の街の発展につながっています。

その思いをつなぐのが、私の役割です。先代から受け取ったたすきを次代へ渡すまで必死に走る駅伝ランナーのようもの。ただ、100年、200年と土地を守り続けるのは、実に大変なことです。しかも、地域のために土地を生かす責任があります。

私は当家の16代目。「地域と共にあれ」と地主の心得を教えられて育ちました。では、100年後の地域のために何を残すのか。その答えを三つの願いに込めました。企業として、環境性能の国際的な認証制度「LEED(リード)」に挑戦しているのもそのため。夫の遺志でもあります。

私はここを、顔の見える地域のつながりを取り戻す場にしたいと考えています。地域の将来像を大手の土地開発事業者に託すのではなく、この地域ならではの姿を自ら描きたい。まだ間に合うと思っています。

ビレッジという名称は「道路村長」から連想したものです。ただ、入居者の方々だけでつくる閉鎖的なコミュニティではなく、地域の皆さんと積極的につながって一緒に楽しく暮らしてほしいと思っています。

例えば、子どもの安心・安全は、地域の中に顔の見える関係があってこそ実現できるものです。地域とつながるために、防災訓練を兼ねて交流を深めるイベントや、地場の農産物を販売するファーマーズマーケットなどを開催したら楽しそうです。敷地を通り抜ける小道に面した店舗前スペースが、イベントにうってつけでしょう。この建物が地域の皆さんからも長く愛されることを願っています。