特集|加須カレーが見据える 真の地産地消の先

エコ贔屓(ひいき)特集 埼玉新聞2022年12月21日掲載

地産『他』消と地産『訪』消

地場産の魅力 強烈に発信

 県内一のコメどころ加須。市域面積の約半分が農地で、コメのほかにもキュウリ、トマト、ナス、イチゴなどの野菜や、イチジクなどの果樹、花き、畜産、養魚まで多様な農業が盛んだ。

「加須産はおいしい。でも、発信力が微妙で、ほかの産地に埋もれて目立たない。ならではの魅力や個性といったものをもっと強烈に伝えたい」と、加須カレー研究会は設立された。高い品質と地産地消の魅力を一つにまとめて、どう発信すればいいのか。ご当地カレーが手っ取り早い——。気炎万丈、酔眼の議論から加須カレーは誕生したという。

だが、取り組みは本気だ。ご当地カレーのほとんどが、基本のルウに既製品を使っている。スパイスも地元産にこだわれば、個性的なカレーになる。ターメリックはウコン。コリアンダーはカメムシソウ、セリ科の野菜だ。ある程度は地元産で揃う。

こうしてオリジナルブレンドのスパイスを考案。とろみの少ないインド式のカレーに仕上げた。研究会会長の中村直樹さんは「目指したのはA級グルメ。ここまでやるご当地カレーはほかにない」と自信をのぞかせる。

真の地産地消を目指さなければなるまい。その面白さと可能性に引かれて、会員には生産者や飲食業、食品小売業など多彩な顔が並ぶ。つながりは緩やかというが、面白いことには貪欲。新しい取り組みが次々に生まれている。

松村牧場の「香り豚」は、加須カレーに欠かせない食材の一つ。ブランドの生みの親、松村淳さんは野菜やコメの農家と連携。豚のフンのたい肥で農産物を育てる試みを始めた。ゆくゆくは加須産の飼料米で豚を育てたいと意気込む。

香り豚のたい肥でコメを育てる角田大輔さんは、人のつながりに魅力を感じている。「生産者と消費者の顔が互いに見える関係が信頼につながる」。

真の地産地消とは何か。中村さんは、カレーを通して地産地消の先を見据える。「加須のおいしさを外の人に伝える地産他消へ。さらに、おいしさに引かれて加須にやってくる人を増やす地産訪消へつなげたい」。

コロナ禍で発売の大花火を打ち上げる機会を失った。だが、準備は万全。虎視眈々(こしたんたん)とその時を狙っている。

加須カレー研究会の中村直樹会長(中央)、コメ農家の角田大輔さん(右)、松村牧場の松村淳さん