『酪農応援歌』牛乳の日に発売

物価の優等生値上げ
飼料高騰で生産者苦境

牛乳は、価格に大きな変動がないことから「物価の優等生」といわれてきた。だが、食品や飲料の値上げが相次ぐ中で、22年11月に異例の値上げに揺れた。実は、牛乳の原料となる生乳は余っていたという。

政府は14年頃のバター不足を受けて、生乳の増産にかじを切った。生産量が順調に増える中、コロナ禍で外食や学校給食などの消費が泡のように消え、供給が需要を上回る状態に陥った。
5000トンの生乳が廃棄される可能性がある――。21年末、生乳大量廃棄の危機に消費拡大の動きが全国に広がった。

大量廃棄の危機は22年末にも。価格が上がった牛乳が売れず余ってしまうのではないか。学校給食がない冬は、年間で最も消費量が落ち込む。国や関係者は気をもんだ。余剰でも値上げした背景には、ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安に伴う飼料高騰のあおりを受けた生産コスト上昇がある。

酪農家がいくら乳を搾っても赤字になるという事態。牛乳の価格から見えるのは、想定外の事態に翻弄される酪農家が直面している厳しい現実だ。

応援歌の醍醐味
流行歌は言葉を伝える

フリーボードレコードから発売された20周年記念シングル『あなたの歌になりたい』（詞・松井五郎、曲・都志見隆）。スポットライトにはきっと神様がいる。カーテンコールにはきっと幸せがある。拍手の向こうにはきっと人生がある。これらのフレーズに、聞き手は「ずっと歌と生きていく」という歌にかける大木の覚悟や人生を感じ取る。

だが、大木は照明を浴びるのも、喝采や拍手も頑張るすべての人へ贈られるものと解釈している。「人生には挫けそうになることもある。その時、この曲がもう少し頑張ってみよう、歩いてみようという気持ちにつながって、聞く人の助けになれば幸せ」。

流行歌は言葉を歌にのせて伝えるもの、と大木は言った。だから思いを込めて歌うのだ、と。「この曲は、みんなの心に寄り添う応援歌。詩を素直にそのまま伝えたいと思う」。だから、こぶしを入れずストレートに歌い上げる。流行歌の醍醐味（だいごみ）や楽しみ方の神髄を知った気がした。

醍醐味（だいごみ）とは、ものごとの本当の面白さの例え。もともとは仏教用語で最高の教えを指す。「醍醐」とは乳製品の一種らしい。「牛より乳を出し、乳より酪（らく）を出し、酪より生酥（せいそ）を出し、生酥より熟酥（じゅくそ）を出し、熟酥より醍醐を出す」。醍醐が最上の味であらゆる病に効くとされ、仏の尊い教えに例えられた。

では、大木は『酪農応援歌』をどう解釈しているのか。この曲の醍醐味をどう感じているのだろう。

厳しい現実を知り
共感をもって歌う

♪澄んだ瞳と大きなからだ／牛と一緒にくらしたい／頑張れ日本の酪農家／憧れた私の応援歌…

乳を搾っても赤字になる事態だが、牛は生きている。ほかの業種と違って、酪農家は仕事を止められない。そこには経済的、肉体的、精神的な厳しさがある。

「私が廃業した時よりも事態ははるかに深刻。その厳しさを理解した上で歌ってほしい」。作詞作曲した元酪農家の思いと共に、大木は曲を受け取った。

酪農関係者ではない自分が歌うからこそ意味があるのではないか。大木は、共感することの大切さに思いを寄せる。ただ、すでに頑張っている人へ、さらに頑張れ、負けるなと伝えるのはつらい。

牛乳を飲んで酪農家を支えようと歌うのではない。これは酪農家の応援歌だ。頑張っていることも、厳しいことも分かっている。だが、「それでも私は憧れをもって日本の酪農家を応援したい」と大木は言う。だから歌うのだ、と。

♪頑張る日本の酪農家／感謝を込めた応援歌…

この曲は、この時期に届けるからこそ意味があるのではないか。サンプル版を手作りして、発売前に関係者に聴いてもらおうという企画が進んでいる。

『酪農応援歌』のCD発売は23年６月１日、「牛乳の日」に決まった。

（文・構成　阿久戸嘉彦）

大木綾子（おおき・あやこ）　東京都出身。東京ディズニーランドの舞台ダンサーとして活躍後、２００２年『女鳥羽川／ぼたん雪』でデビュー。２１年春、デビュー２０周年を迎えた。記念ベスト・アルバム『綾子の夢は夜ひらく』、記念シングル『あなたの歌になりたい／さぁさ　日本を咲かせましょう』を発売。レインボータウンＦＭ「おもいで歌謡うた物語」のパーソナリティ。
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