話題を聞き解く|義肢装具士の仕事

学生の指導に当たるかたわら、自らも大学院生として新しい技術の研究開発に挑む(人間総合科学大学)

「踏ん張る」制御 新しい技術に挑む

埼玉県さいたま市岩槻区。義肢装具士を養成する人間総合科学大学を訪ね、保健医療学部リハビリテーション学科義肢装具学専攻の本道伸弘助教に話を聞いた。

義肢装具士は「免許を受け、医師の指示のもと、装具を着ける部位の採型、装具の製作や適合を行うことを業とする者」と、義肢装具士法で規定されている。国家資格で、1987年に制度化された。「医療専門職の中でも比較的新しい資格で、有資格者は全国に6千人ほど。まだまだ少ない」と、本道さんは言う。パラリンピックやパラスポーツの認知度が高まるにつれて一般にも知られるようになった。

本道さんは、かつて大型トラックの運転手だった。26歳で心機一転。専門学校で学び、義肢装具士の資格を取得した。就職して臨床を積む中で、気づいたことがある。

「医療分野でありながら、職人の世界でもある。高い技術力を求められるのに加え、利用者の体に合うように繰り返す調整と修正の作業は極めて感覚的で、職人的な気質がいる。そこが面白かった」

ソケットの内側に、わずかに削った痕跡が残っていた

「雰囲気をつめる」感覚
医療分野の職人気質

人の体は太ったり、やせたりして、常に変化する。生活の場面で姿勢も変わる。歩くという動作にも、始めと終わりがある。恩師からは、見て覚えろと教えられた。義肢の調整と修正は、微妙で繊細な「雰囲気をつめる」作業。

教材の義足を見せてもらった。削った痕がある。「1ミリにも満たない、感覚的な調整」という。これが、本道さんが職人気質と呼ぶ領域なのだろう。

現場で臨床を積みながら、大学でバイオメカニズムを学び、請われて北海道の専門学校で教鞭を取った。教える立場。学生と向き合って気付いたのは、職人気質の領域を教える難しさだった。

「義肢装具学は発展の途上にある」と、本道さんは言う。職人気質を客観的に、科学的に評価できれば、学ぶ学生を通して、利用者にも貢献できる。本道さんは札幌医科大学大学院医学研究科へ進学。脳神経科学分野を研究した。大学が再生医療の研究に積極的だったことにも背中を押された。

パラアスリートが着用する競技用の義足ブレード。すねからつま先までが「く」の字型の板バネ状になっていて、弾性を生かして走る。例えば陸上男子100mでは、五輪とパラで優勝選手のタイム差はわずか1秒ほどに縮まった。より速く走る、より高く跳ぶ性能や技術を求めて熾烈な競争が繰り広げられる中、海外メーカーが先を行くが、国内メーカーも技術力でこれを追う。

一方、本道さんが目指すのは、利用者の日常生活を安全に支える技術。超高齢社会の中で、義肢装具の利用者は増加傾向にあるという。人間総合科学大学で学生の指導に当たるかたわら、埼玉大学大学院理工学研究科で研究を続けている。

ペディキュアを塗っておしゃれを楽しめる素材もある

自身の足のように動く
日常を支える義足に新技術を

所属するのは、ロボット工学の研究室。本道さんの研究は、義肢装具の利用者にどんな未来をもたらすのだろうか。

一般的な義足は機械式で、歩く動作に合わせて動く。このため転びそうになって踏ん張ると、強い力が加わることで逆に膝が折れてしまう。本道さんが挑むのは「自身の足のように、自分の意思で伸ばしたり、曲げたり、縮めたり自動で制御する技術の開発」。

断端を収納して義足と接続するソケットにセンサーを取り付け、「転びそう」という生体信号をとらえると、「動かない」という動作を自動で判断する。肝は、こうした一連の処理を、義足が人工知能のように機械学習で自ら学ぶ技術だ。

課題は生体信号をとらえる感知の仕組みとプログラム。感知の仕組みは、すでに健常者で立証し論文にまとめた。プログラムについても年内にまとめたい考えだ。

義肢装具士は利用者に寄り添い、日常を支え続ける。ときには「利用者を見送ることもある」。線香を手向けてほしい、という家族の声は深いつながりの証だろう。「利用者の誰もが着用できて、安全に歩ける義足をつくりたい」。本道さんの研究は、今よりもさらに当たり前の日常を支えることにある。

(文・構成 阿久戸嘉彦)

※ウェブ公開に当たり、一部加筆・修正しました。

本道伸弘(ほんどう・のぶひろ) 義肢装具士。人間総合科学大学保健医療学部リハビリテーション学科助教。2019年から現職。07年、早稲田医療技術専門学校義肢装具学科卒業(義肢装具士免許取得)。12年、早稲田大学人間科学部健康福祉学科卒業。19年、札幌医科大学大学院医学研究科修了。20年、埼玉大学大学院理工学研究科理工学専攻博士後期課程。