話題を聞き解く|東日本大震災から10年

2018年10月、米ニューヨークで開催された「ジャパンフェス」。スペルグループ「ユニサウンド」と共演した(写真提供・秋葉珠実さん)

いのちの共生と絆 心の変化映す

今年の3月6日夜(日本時間7日午前)、米ニューヨークで、東日本大震災の犠牲者を追悼する式典「TOGETHER FOR 3・11」が、在留邦人らによって開かれた。式典は、震災の翌年から毎年開かれているもので、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オンラインでの開催となった。

式典では、関係者の動画メッセージが紹介され、秋葉さんもメッセージを寄せた。その中で、原発事故で町外避難を余儀なくされた畜産農家に触れ、殺処分に同意せず世話を続ける生き様と、飼育されている黒毛和牛の「たまみ」に出会った体験を紹介。原発事故で失われた、人間だけでなく多くの動物の命へ思いをはせ、「命の尊厳を真剣に考えていきたい」と訴えた。動画の中で、秋葉さんはこう語っている。

「人間と動物が共存できる世界。壊したのも人間だが、創ることができるのも人間。一緒に創り上げましょう、新しい世界を」

震災後、東京にあった制作の拠点を福島に戻した。地元では絵本作家「あきばたまみ」として知られていたが、歌うことも大好きだった。ライブペインティングは、画と音楽で表現する。その魅力に惹かれ、アーティスト活動の方向が定まった。

こうして、ライブペインター「秋葉珠実」は活動を始めた。初めてのパフォーマンスは、2014年。東日本大震災の復興イベントで不死鳥を描いた。

「福島に生きる者として、福島の今や福島に暮らす人々の心を伝えたいという思いが常にある。不死鳥は、よみがえる力の象徴。震災や原発事故を経験した福島から生まれた私のパフォーマンスのモチーフにふさわしいと考えた」

和服姿で、音楽や場の雰囲気に身を委ねて描き上げるパフォーマンスが評判を呼び、活動の場は間もなく世界へ広がった。17年には、米ニューヨーク最大のストリートフェス「ジャパンフェス」に参加。新進気鋭のアーティストと共にパフォーマンスを披露して人気を得た。

「福島を心配してくれる声は海外にも根強い」と、秋葉さんは言う。異国で描く不死鳥には、どんな思いがあったのだろう。秋葉さんは、こう話す。

「たくさんの人に支えられてよみがえりつつある福島を、美しい不死鳥に重ねて描いた。もっと知ってほしい、正しく知ってほしいという福島に生きる人たちの気持ちを世界へ伝えたかった。福島に自分の足で立っているからこそ、堂々と表現できると自然に思えた」

音楽に合わせて30分から1時間で数メートルの画を完成させる。描くのは、秋葉さんが「福来神(ふくがみ)の遣い」と呼ぶ生きものたち。福を連れてくる神様の使い、という意味だ。勢いのある筆遣いの一方で、どことなくかわいらしく、優しい表情が印象に残る。

福島の心を映す鏡
不死鳥から白龍へ

福島市小田の鹿島神社に、8メートルの白龍が奉納されている。19年1月に福島市内で開かれたイベントで、秋葉さんが描いたものだ。縁があって、その年の夏に奉納された。

白龍は、古代中国では天帝の使いといわれる高貴な獣神。福島市民に親しまれている吾妻小富士へ向かって昇天する姿を描いた。早春、吾妻小富士の北東斜面に現れる「種まきうさぎ」の雪形もしっかり描き込んだ。

「被災地は頑張っている。海外の人たちも応援してくれている。多くの支えがあって、私たちはここまで来た。その感謝を、福島から返したい。みんなで一緒に幸せになろうと、福島から世界へ発信する時期ではないか。心のどこかにずっとあった思いが、まっすぐに天へ昇っていく白龍の姿に重なった」

鹿島神社に龍が奉納されたのは200年ぶりのことだ。折しもこの年、200年ぶりの天皇陛下の生前譲位によって、令和が幕を開けた。「龍は、福島の人を守ってくれる存在。200年前に奉納された黒龍と対のように、時機を合わせて白龍を奉納したことに不思議な縁を感じる」と、秋葉さんは話す。

不死鳥から白龍へ。秋葉さんはアーティストとして、被災地の心の移り変わりを敏感に感じ取り表現してきた。白龍は未来へつながる生命の象徴であり、昇っていく先にはきっと「みんなで創り上げる新しい世界」があるのだろう。「私の生きるテーマは命の共生と絆。これからもずっと大切にしたい」。秋葉さんは今夏、都内で個展を予定している。

(文・構成 阿久戸嘉彦)

※ウェブ公開に当たり、一部加筆・修正しました。

奉納した白龍。左は丹治政文宮司。福島市小田の鹿島神社(写真提供・秋葉珠実さん)

[あきば・たまみ] 福島県福島市生まれ。共立女子大学卒業後、米ニューヨークへ留学。ゴスペルなどを歌いながら、音楽を学ぶ。2年間の滞在を経て帰国。2014年からライブペインターの活動を開始。また、「あきばたまみ」の名で絵本作家、イラストレーターとしても活躍。主な著書に『インコの手紙』(経済界)、『きんばあちゃんの花見山』(オープンエンド)などがある。オリジナルの「龍の守り絵」、ペットの絵などの受注制作にも取り組む。

秋葉さんは今(2023年5月時点)、東京へ拠点を移し活動しています。また、「龍画師」を名乗って新たな領域へ活動の幅を広げています。記事に登場する小田鹿島神社(福島市)は開運、勝負運の神様をお祀りしていることから、新規開業の企業などの壁面に守り龍を描き、奉納しています。

秋葉さんの最新情報は「あきばたまみ オフィシャルホームページ」をご覧ください。