受け継ぐコストに目を向けて
駿河台大学スポーツ科学部教授 平井純子さん
勤務する大学は埼玉県飯能市にある。北欧をモチーフにした施設メッツァビジレッジやムーミンバレーパークが市内に開園して注目を集めた。フィンランドは、国連の世界幸福度ランキングで連続首位を獲得する人や環境に優しい国。だが、この国についてどれほど知っているか。「ずっともやもやしていた」。
2020年夏から1年間、フィンランドのオウル大学で客員研究員を務めた。持続可能な観光地域づくりや環境教育の事例などを収集。小学生の娘を連れて赴任し、現地校に入学もさせた。母娘で体験して感じたのは「環境に配慮するのが当たり前の社会」。日本でも注目されるサステナブルツーリズムの課題などについて話を聞いた。
北欧で違い実感
——フィンランドの観光の特徴は。
平井 資源が少ないフィンランドにとって、観光は重要な産業。大学があるオウルの街は周辺地域を取り込み、教育を売りにした観光振興を戦略的に進めている。ターゲットは日本人や中国人。
教科横断的な学習、国際化や環境問題への取り組みなどに先進的な方針を掲げ、日本と違って学校ごとの裁量が大きい。積極的で柔軟な教育活動の視察は、大きな学びの機会になると思う。
——フィンランドの教育は世界トップクラスと聞く。
平井 長い夏休みを前に、娘は宿題を気にした。「好きなことをして過ごしなさい」。教師の言葉に、その答えが現れていると思える。
娘は理科で人体について学ぶと、図工では粘土で内臓を作った。教科横断的学習で知識を身に付けるのがフィンランド流だ。のこぎりで木を切る。ライターで火を着ける。普通のことができない日本の子どもたちに違和感をずっと覚えてきた。現実と結びついていない知識に意味があるのか。日本との違いを痛感した。
——日本における持続可能な観光の課題は何か。
平井 エコツーリズムはボランタリーなもの、という印象が強くはないだろうか。例えば地域の文化は、地元の人には「普通」だが、初めて触れる人には特別で「異日常」の体験。だから、観光の売りになる。ただ、守り受け継ぐためのコストにはなかなか目が向かない。
自己実現のために手弁当で続けるのは間違っていない。だが、やがて後継者がいなくなってしまう。適切なコストの負担を求め、若い世代が受け継げる持続可能な仕組みをつくる必要がある。
※平井純子教授は2023年4月、駿河台大学副学長に就任されました。