体験して守る。新しい旅のカタチ
「旅行で地域へ」好影響重視
新型コロナウイルス感染対策として政府が推奨してきたマスク着用が緩和された。人が集まる県内の施設では着用について「個人の判断に委ねる」とし、着用の呼びかけやポスター掲示をやめ、「客足が戻るきっかけに」と期待する声も。こうした中で、コロナ禍の直撃を受けた観光業界では「サステナブル(持続可能な)ツーリズム」が注目されている。
これは「観光地の本来の姿を持続的に保つことができるように、観光地の開発やサービスのあり方を見定めた旅行」(JTB総合研究所)を指す。欧米などでは、二酸化炭素の排出が少ない移動手段を使ったり、観光客を人数制限したりするなど環境に配慮したツアーを指すこともある。
また、地域の伝統や文化、産業などを体験して守るという旅行もその一つとされ、新たな旅行の形として脚光を浴びている。
米国の民泊仲介大手「エアビーアンドビー」が2021年に発表した調査では、「持続可能なツーリズムが重要」と考える日本人は68・6%に上った。コロナ禍を経て、これからは「旅行先の地域社会に自分の旅行が好影響を与えるかどうか」を重要視したいという人が確実に増えている。
国も「関係人口」創出支援
「観光×ボランティア!ボラっとちちぶ」は埼玉県秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町が連携して取り組むボランティアツーリズム。秩父地域で人々が大切に守ってきた暮らしや自然、伝統や文化などを持続可能にする試みだ。参加者は座学などで地域について学び、住民と交流しながら里山の保全や竹林の整備、外来種の駆除などに汗を流す。
サステナブルツーリズムは、地域の文化や暮らしに触れる。うどんやそばの手打ちに挑戦したり、地元の名物に舌鼓を打ったりする体験をボランティア活動と組み合わせることで、参加者を引き寄せる。地域に根づいた文化が参加者を楽しませると同時に、それらを守り続けることの価値に地元住民が気づく機会になり、喜びにもつながるという。「住んでよし、訪れてよし」という視点が、持続的な地域の可能性を引き出す。
サステナブルツーリズムが広がる背景には、働き方や住まい方に対する意識の変化がある。ふるさとを持たない若い世代が増え、田舎へのあこがれとかかわりを求める動きが生まれている。
観光庁も後押しする。「第2のふるさとづくりプロジェクト」を始動。今年度はモデル実証事業に19地域を採択した。県内では秩父市などと小川町が選ばれた。地域と多様にかかわる「関係人口」の創出に向け、都心に住む若者らと地域との接点をつくるなど支援の幅を広げている。