話題を聞き解く|縁起物「だるま」の魅力

群馬県高崎市のだるま市。「だるまを買いに出かけてね」

消えちゃうから応援したい

商売繁盛、家内安全、開運などさまざまな願いをかけて片方に目を入れる「願かけだるま」。起源は中国の玩具といわれ、室町時代に日本に伝わって「起き上がり小法師(こぼし)」になった。だるまが現在のような形になったのは江戸時代中期、赤い法衣を着て座禅する達磨大師に見立てたらしい。

「お顔や形が地方によって特徴があって面白い。川越だるま(埼玉県)は鼻が高くてハンサムだし、越谷だるま(同)は色白で上品で優しい感じ。だるまには、こけしのように作者の銘を入れませんが、詳しくなるとひげやまゆなどの描き方、筆使いで誰の作か分かるといいます。私はまだまだ未熟ですけど」

願かけだるまは、保存されることがほとんどない。大願成就の末に両目を入れ、お焚き上げ供養してもらうからだ。加えて職人の減少という深刻な問題がある。かつては地方色豊かだっただるまが今、地域から姿を消している。

るまさんは毎年、全国のだるま市へ出かける。だるまの一大産地として知られる群馬県高崎市のだるま市では、長野や新潟の職人から声をかけられる。

「だるま市は、近隣の産地からだるまを集めて売るようになっています。だるまはかつて、地域の農家が農閑期に作って地域のだるま市で売るものでした。地域のだるまが消えることは、だるま市のにぎわいとは裏腹に、その地域の特徴や色合いが消えるということです。本当に寂しいから、少しでも応援したい」

さいたま市内では、岩槻区の田口物産と岩槻整型がだるま製造として「伝統的な工芸技術を継承する事業所」に指定されている。ご当地キャラを描いた「願かけヌゥだるま」もあって人気だ。また、埼玉県内の産地の一つ、川越は一時火が消えかかったものの「今は女性の職人さんがすごく頑張っている」。

寺社仏閣では必ず御朱印をいただく。さいたま市浦和区の調宮(つきのみや)神社

2020年の「だるま予報図」

大願成就を祈って、だるまに目を入れる。さて、左右どちらに目を入れるのが正式なのか。

「これは大問題で、研究会としても結論が出ていません。私はどちらでもいいと思っているんですけどね。祈願してもらうと片目に小さな点を入れてくれて、後から自分で大きな目を描きます。地方によって異なりますが、何となく左目が多い印象ですね」

だるまは濃いひげと太いまゆ毛が印象的で、何だか怖い。中には馬の毛などを植えたリアルなものもあるという。るまさんの「イチ推しだるま」を聞こう。

「しっかり心にありますけど、応援する立場からは言いにくいなあ。でも、皆さんと分かち合いたい。そのだるまは、ひげとまゆがコントみたいで、ふさげているのかというくらいにかわいい。その土地でしか手に入らない希少性も加わって大好きです」

写真をみせてもらった。確かに和む、ほっとする。誰でもにっこりして一生忘れない強烈な印象がある。あえて紹介しないが、ご当地は信州の城下町。探してみると楽しさが増す。

だるま市は「12月中旬から始まって3月に開かれる調布市(東京都)の深大寺が最後」といわれる。るまさんは、この限られた期間に全国のだるま市を巡る。これまでに集めただるまは「100以上は確実」で、とてもすべては飾り切れない。

「だるまは重ねられない。だから、これからだるまを集めようという人は、最初に形や大きさを決めておくといい。飾ったときに見栄えがいいし、保管するにも都合がいいです。問題は大きさによってお顔の描き方が変わること。だからついつい大きいのを買っちゃう」

ラグビーW杯日本大会でもだるまぬいぐるみが公式グッズに登場した。東京五輪公式グッズとしても販売されている。2020年は、だるまの魅力を世界へ発信する絶好の機会。るまさんはどう感じているのだろう。

「世界の人に知ってほしい。問題はだるまを伝える英語。これまではラッキーチャーム(幸運のお守り)とか、七転び八起きだからネバーギブアップとか説明していましたが、本当はなんて言えばいいんだろう。誰か教えて!」

(文・構成 阿久戸嘉彦)

※ウェブ公開に当たり、一部加筆・修正しました。

るまさんイチオシのだるま。表情がなんともかわいい。確かに一度見たら、もう忘れられない

[やまだ・るま] 2008年、だるまが好き過ぎてだるまのマスコットキャラクターに。全国のだるま市やお祝い事に駆けつけるほか、ご当地キャライベントにもゲリラ的に参加する。2015年からは国土交通省、河川財団子どもの水辺サポートセンターのライフジャケット着用キャンペーン「ライジャケ・オン」のイメージキャラを務めている。