再考『八ッ場ダム』 松浦茂樹・東洋大教授に聞く【4】

建設が進む八ツ場ダム。巨大な橋げたが伸びていく(2009年9月撮影)

矛盾する水需給計画

ダム建設は、ある考え方で立案された治水や利水の計画に基づいて進められます。ダム問題を考えるにはそれらの計画を検証することが重要であると、これまでも述べてきました。それでは、埼玉県が2007(平成19)年にまとめた「埼玉県長期水需給の見通し」をみましょう。

これは、国が10年に一度起こる渇水時に水資源開発施設で供給できる水量を示したのを受けて、埼玉県が保有している水源の評価を行ったものです。

これまでに保有している上水道の水源は毎秒39.128立方メートル。これは利根川と荒川を合わせたもので、未完成の八ッ場ダム、思川で築造が進んでいる南摩ダムを含めたものです。

見通しは、この水源を10年に一度の渇水を対象に評価すると毎秒31.849立方メートルに減少するとしています。このうち水源開発施設による開発水量をみると、毎秒31.131立方メートルが毎秒24.204立方メートル(に減少する)との評価です。

一方、最大の水需要が見込まれるのは2010(平成22)年度で、必要水量は毎秒34.091立方メートル。毎秒2.242立方メートルの水量が不足することになります。この不足分について、見通しは「新たなダム計画がないことや、今後水需要は減少傾向にあることから、雨水や下水再生水などの雑用水利用促進や節水啓発活動を進め、水道水の需要量を抑えることで対応すること」としています。

なお、他の利水都県では需要に見合う水が確保されていると聞いています。つまり、水需要量の減少と安全度の向上がうまい具合に帳尻が合ったというわけです。

水需給バランスが計画上取れなくなったといっても、あくまでも計画上の話であり、それが表面化するのは大きな渇水が生じた時です。平常の降雨であったら、なんら問題は生じません。

水利行政の責任

1964年の東京五輪前後、首都圏は深刻な水不足に陥り「東京砂漠」といわれた

多少皮肉も含んでいるのですが、水需給計画は融通性の高いものだといえます。このため市民にはなかなか分かりにくい。最も重要なことは、どのくらいの規模の渇水を対象にしたらよいのか、つまり安全度をどのようにするのかです。逆にいったら、水道から水が普段通りに出なくなってもどれほど我慢できるのか、です。

ところで、これまで水源開発施設に莫大な投資を続けてきた目的は何だったのか。それは安定した水利権を得るためだったはずです。ところが、水の安全度を上げたことで、当初の約束よりも毎秒6.927立方メートル少なくなってしまうという。何かすっきりしません。

水資源は、河川管理者である国の力が決定的に強く、国が一元的に管理するものです。私は、こうした水利行政を進めてきた国も費用負担などで然るべき責任をとるべきだと思います。