需要に見合う水は本当に確保できているのだろうか。
人口が減少し、節水機能が向上した洗濯機やトイレなどが普及している。1日平均の1人当りの水使用量は1997年をピークに減少傾向に転じた。こうした中で、国交省は利根川水系の水需要見通しを下方修正。合わせて「水の安全度」を高めたことで、利水者の都県は保有する水源の再評価を行った。取水権と水需給見通しとの矛盾。安定的な水の確保を巡って、水資源を一元的に管理する国の責任はどこにあるのか、松浦茂樹東洋大学教授に聞いた。(編集部 阿久戸嘉彦)
※この記事は、月刊RIVER LIFE(2010年2月号)に掲載したものです。
水需給計画に「矛盾」。国の責任も
前号では利水について、渇水が起こる頻度によって計画上の安全度が想定されていると述べました。「5年に一度」と「10年に一度」起こる渇水を比べると、「5年」の方が発生頻度が高いのですが、渇水の規模は「10年」の方が大きくなる。「10年に一度」を計画の対象にすると、より深刻な事態に備えることで水の安全度は高まるわけです。
一方で、安全度を低くして計画すると水利行政上、取水可能な水量が増えます。水需要がひっ迫していた利根川水系では、計画上の安全度を引くくしても取水できる量を増やしていた経緯があったと指摘しました。
今日、利水問題から八ッ場ダムを考える時、水需要の減少がいわれます。つまり、水はすでに足りている、あるいは余っているという考え方です。人口減少の時代に突入したこと、回収水向上などによる工業用水の需要減、節水機能が向上した洗濯機やトイレの普及などが要因として考えられます。
こうした水需要減少の背景もあって、水資源を一元管理している国は、それまで5年に一度の渇水に備えていた計画のみならず10年に一度の渇水を対象とした計画給水量を提示しました。当然、取水可能な水量が減ります。
この計画の見直しによって、何が起こったか。私は10年に一度の渇水を対象にするとの方針は妥当だと考えていますが、安全度を上げることで水需給計画に矛盾が生じることが想定されます。また、そのための費用はだれが負担するかなどの問題が生じます。特に、八ツ場ダム最大の利水者である埼玉県のケースは興味深く、利水計画とは何かを考える重要な手がかりがあります。