再考『八ツ場ダム』 松浦茂樹・東洋大教授に聞く【2】

利根川中流部、八斗島付近。群馬県伊勢崎市と埼玉県本庄市を結ぶ坂東大橋

八ッ場ダム再考の出発点

2006(平成18)年に利根川整備基本計画が策定されました。計画によれば、八斗島地点の毎秒2万2千立方メートル(基本高水流量)のうち、毎秒1万6500立方メートルを河道で負担し、5500立方メートルをダム群で調節するとしています。

ここで考えてみましょう。基本高水流量を、カスリーン台風時の観測数値から算出したピーク流量を毎秒1万7千立方メートルとすれば、基本方針で計画された河道で負担する流量との差はわずか毎秒500立方メートルであることに気づきます。つまり、堤防の整備を勧め計画通りに洪水を河道で負担できれば、ダムによる調節量はわずかで済むわけです。

堤防には安全を保障するために余裕高が確保されています。埼玉県下の利根川の場合には、これが約2メートル。水防活動を充実させるなどすれば、洪水を計画水位以上に流下させることができるかもしれない。

また、ダムによる調節量を毎秒500立方メートルと考えれば、すでに足りているかもしれず、治水対策からの八ッ場ダムの必要性が問われるかもしれません。

さらに、基本方針は八ッ場ダムや鬼怒川上流で建設中の「湯西川ダム」が完成しても、さらに3億5千万立方メートルの治水容量が必要としています。八ッ場ダムの総貯水容量は約1億立方メートル。この規模のダムが今後3.5個も必要なわけです。こう考えると、上流山間部でダム建設を進める治水方式そのものが、既に破たんしているとも思えます。

八ッ場ダムを治水対策から再考する時、治水の根本から考えていく必要性を感じます。

※この記事は、月刊RIVER LIFE(2009年12月号)に掲載したものです。
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松浦茂樹 まつうら・しげき
1948年生まれ。埼玉県熊谷市出身。東洋大学国際地域学部国際地域学科教授。71年東京大学工学部土木工学科卒、73年同大学院修士課程修了後、建設省(当時)入省。同省土木研究所都市河川研究室長、同省河川局水理調査官などを歴任。99年から現職。主な著書に「国土開発と河川-条理制からダム開発まで」(鹿島出版会)、「戦前の国土整備政策」(日本経済評論社)などがある。

※写真・プロフィールは、掲載当時のものです。
※松浦氏は2022年に亡くなられました。心からご冥福をお祈りいたします。